介護と仕事の両立コラム コラム

部下から介護に関する相談を受けたときの対応ポイント

はじめに

高齢化が進む日本では、介護は特別な出来事ではなく、多くの人にとって生活の一部となりました。育児介護休業法の改正に伴い、職場における介護と仕事の両立支援が強化されることで、従業員からの相談を受ける機会も多くなるのではないでしょうか。

【参考資料】厚生労働省「【2025年施行】育児・介護休業法の内容について企業向けにわかりやすく解説」(参照:2026年9月27日)

これまでの介護は、個人の問題として捉えられることが多くありましたが、近年では職場の課題へと意識が変わってきています。しかしながら、社会や職場の意識は変わっても、多くの当事者にとって介護は初めての経験です。予測不能な介護は心身の余裕を奪うほどの大きな出来事です。

そのような状況の中で、部下から「介護が始まりました」と報告・相談を受けたとき、上司はどのように対応すべきなのでしょうか。

当事者へ制度を案内するだけでは不十分です。一方で、過度に感情面の支えになり過ぎることも望ましくありません。職場への影響を考慮しながら、部下が働き続けられるよう制度や支援につなげることが求められます。そのバランスをどう取るかが問われるのです。ここからは、上司が取るべきポイントを一緒に振り返ってみましょう。

1. 最初の一歩は「受け止める」から

介護が始まった部下は、状況をうまく説明できないことが多いものです。要介護者の状態、家族の役割分担、今後の見通しなど、どれも本人がまだ把握しきれていない段階で相談に来ることがほとんどです。だからこそ、上司はまず「話を受け止める」姿勢を示すことが重要です。

この段階で上司から「もっと整理してから話してくれ」「要点は」「何をして欲しいか教えてくれ」などの言葉が最初に出ると、部下は介護が始まったことで「職場に迷惑をかけるのではないか」という罪悪感を抱えやすくなります。相談の場で、その不安を少しでも和らげるためには、詮索するのではなく、必要な情報を丁寧に聞き取る姿勢が求められます。

たとえば、次のような点を確認します。

  • どのような介護が必要になったのか
  • 通院やケアの頻度はどれくらいか
  • 部下自身が担う役割はどの程度か
  • 勤務に影響しそうな時間帯や曜日はあるか
  • 今、特に困っていることや不安は何か

これらは業務調整に必要な情報であり、部下の生活を理解するための基礎となります。上司が落ち着いて話を聞くことで、部下は「相談してよかった」と感じられます。これは、介護離職を防ぐうえで非常に大きな意味を持ちます。

2. 制度の案内は「選択肢を広げる」ために行う

介護が始まった直後は、本人も家族も混乱しています。要介護認定の申請をどうするか、介護サービスは何があるのか、家族間の調整など短期間に多くの選択を迫られる手続きが発生し、仕事との両立を考える余裕がなく、すべて自分が背負おうと視野が狭くなってしまうことが多いものです。だからこそ、上司が会社に次のような制度があることを例えば、次のような会社の制度内容を知り、部下に伝えるだけでも大きな安心材料となります。

  • 介護休業や介護休暇
  • 時短勤務
  • フレックスタイム制
  • 在宅勤務など、柔軟な働き方ができる制度

また、介護に関する相談を受けた際には以下の相談窓口を伝えることも有効です。

  • 自治体の相談窓口
  • 地域包括支援センター

上司は、各制度の専門家である必要はありません。むしろ「制度があることを知っている」「地域包括支援センターを教える」「会社の制度利用について総務や人事につなぐ」という姿勢が重要です。

部下は「働き続けられる」と知るだけで、心理的負担が大きく軽減されます。部下のためと思って、介護休業を強く勧めたり、「頑張って」と安易に声をかけたりすることは、部下の選択を狭め、拘束感やストレス増加に繋がってしまうことがあります。介護と仕事の両立のために、働き方と介護の仕方の選択肢を広げることが、ストレスの軽減につながるのです。

3. 要介護度に振り回されないという視点

介護の負担が仕事にどの程度影響するかの判断は、容易ではありません。急な通院や体調悪化など、介護には予測できない出来事が起こりやすく、業務の見通しが立たなくなることもあるため、つい「要介護度が重いほど家族の負担も大きいはずだ」と思い込んでしまいがちですが、必ずしもそうとは言えないのです。

介護保険では、心身の状態に応じて「要支援1・2」「要介護1〜5」の7区分が設けられています。要支援は生活機能の低下がみられるものの、比較的自立しており、介護予防を中心とした支援が必要な状態を指します。

一方、要介護は日常生活に介護が必要な度合いを示す区分で、数字が大きいほど介護保険サービスの必要性が高いと判断された状態です。ただし、この区分はあくまで「専門職による介護サービスの必要性」を示すものです。家族介護者の負担度合いと比例するわけではありません。

要介護5のように最も重い状態であっても、専門職による介護・看護が中心となる場合、家族が担う介護はむしろ減り、仕事に充てられる時間が増えるケースもあります。介護の負担は、家族の状況や主となる疾病・状態によって大きく異なるのです。

だからこそ、上司は要介護度だけで状況を判断せず、部下の話から「実際の負担がどの程度なのか」を丁寧に把握することが重要です。そのうえで、部下とともに業務の優先順位を整理し、必要に応じて業務分担を検討することをおすすめします。また、チーム内にこういった要介護度への誤解があれば早めに解消することが、ハラスメント防止にもつながります。

4. 長期戦に備えた継続的フォローが重要

介護は数か月で終わることもあれば、10年以上に及ぶこともあります。要介護者の状態は変化し続け、必要な支援も変わります。だからこそ、上司は「一度相談を受けて終わり」にしてはいけません。

  • 3~5か月程度を目安に、状況を確認する
  • 介護負担の状況や精神的な疲労がないか気にかける
  • 必要に応じて制度利用を再提案する
  • チーム内の業務負荷の偏りを調整する

継続的にフォローしていくことで、相談しやすい雰囲気や職場の理解に繋がります。当事者の多くは、介護の負担そのものよりも「職場で相談できない」「働き続けられるイメージが持てない」ことが原因だと言われています。上司が定期的に声をかけるだけでも、部下の安心感は大きく変わります。

5. 上司が意識すべき”介護のリアリティ”

介護は、本人の生活だけでなく、感情にも大きな影響を与えます。当事者は、いつも突然の変化に戸惑い、家族間の調整に疲れ、仕事との両立に悩むものです。上司はそのリアリティを理解しつつ、過度に踏み込みすぎない距離感を保つことが求められます。

上司ができることに限りはありますが、情報提供や声掛け、そして、働き続けるための環境を整えることはできます。その積み重ねが、職場の信頼を育て、組織の安定につながります。

誰かが介護に直面したとき、職場がどう支えるかによって、組織の持続性が左右されます。そのとき、上司が適切に対応できれば、部下は安心して働き続けられます。部下の介護が始まってからではなく、「始まるかもしれない」と感じた段階から、気軽に相談できる職場づくりを目指してください。早い段階から相談できる上司だと認識してもらえれば、部下は安心して仕事との両立を続けられる職場であることを実感できます。上司の対応が、部下の人生と職場の未来を支える大きな力になります。

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